巨大市場であるインドには、成長ポテンシャルに魅かれて世界中から資金が流入しています。海外からの直接投資に関する規制や、外貨持ち出しなどのルール、インドにおける会社法などの情報をご紹介します。
規制・法律
外国投資法
海外からの直接投資に関する規制について
規制業種・禁止業種
・外国企業による対内直接投資(FDI)を所管する商工省産業政策促進局(DIPP)が、FDI政策を一本化した統合版FDI政策(Consolidated FDI Policy)を発表しており、唯一の政策判断の拠り所となる(毎年1回、3月末に改訂)。FDI規則の法的根拠は、インド準備銀行が所管する外為管理法(FEMA1999)。
・ネガティブ・リスト方式(自動認可制度)により、外国直接投資が禁止・規制されている業種・形態、上限出資比率がある業種、外国投資促進委員会(FIPB)の個別認可が必要な業種などが規定されている。ネガティブ・リストに該当しなければ外資出資比率100%までが自動認可される。
・薬品・医薬品については、未開発プロジェクト(Greenfield Project)において自動認可ルートで100%まで出資が可能。開発済みプロジェクト(Brownfield Project)では、74%以下の出資は自動認可ルートで、74%超の出資はPress Noteの条件付き政府認可ルートで、外資が認められる。
・医療機器の製造については、未開発プロジェクト、開発済みプロジェクトともに、自動認可ルートで100%出資が可能。
出資比率
・外国直接投資はネガティブ・リストや禁止リストに該当しなければ、出資比率100%までの直接投資が自動認可される。
・外国機関投資家(FII)・外国ポートフォリオ投資家(FPI)、適格国外投資家(QFI)によるインド企業の株式取得については、証券取引管理局 (SEBI)への登録を条件として、原則として出資比率24%まで、各投資家は10%まで自動認可となる(条件により100%まで可能)。
資本金に関する規制
●会社法(Companies Act)2013の改正に基づき、会社形態によって最低資本金規制はなくなった。
・証券取引所に上場する場合は、公募による資本金額が3,000万ルピー以上で、かつ、総資本金額の内25%以上が公募される必要がある(ボンベイ証券取引所の場合は、総資本金額は1億ルピー以上)。
●ノンバンクにおいては、個別に最低資本金規制が設定されている。
・投資活動を行うノンバンク:外資出資比率が51%以下の場合は50万ドル、51%超75%以下の場合は500万ドル、75%超は5,000万ドル
・投資活動を行わないノンバンク:外資出資比率に関わらず50万ドル
・建設・不動産開発分野への外国直接投資:ロジェクトの開始から6カ月以内に最低500万ドル
●現物出資に関する規制:機械などの設備、ならびに会社設立・登記にかかる前払費用を、資本金へ繰り入れることが可能となっている。
・機械、設備などの輸入資本財を資本金に繰り入れることができる。輸入資本財に中古機械・設備は含まない。繰り入れはFIPBの許可を条件とし、申請は当該資本財の船積み後180日以内に行わなければならない。
・外投資家による、会社の設立準備ならびに登記にかかる前払い費用(家賃も含む)を資本金に繰り入れることができる。繰り入れはFIPBの許可を条件とし、申請は会社登記後180日以内に行わなければならない。
その他の規制
・特別経済区(SEZ)内企業、100%輸出指向型企業(EOU)等は、各種税優遇を得られる条件として、輸出入収支をプラスに保つことが義務付けられる。
・再投資に関しては、2009年2月に新規則が発表され、外国企業による再投資の定義が明確化されるとともに承認手続きが簡素化された。
※上記規制は、インド中央政府が全ての州に対して適用するように定めている。各州政府は、上記規制に従う一方で、外資誘致に積極的な州などは、中央政府からの承認を得た上で、州VAT(付加価値税)のコントロールを行うことが可能である。
出典:経済産業省
会社法
2013年に約60年ぶりに全面改正され、新会社法(Companies Act, 2013)として成立。その後、いくつか改正されている。
事業拠点の形態別の概要と規制内容
現地法人(Company)公開会社
●概要
株主が7人以上、取締役は3人以上必要である。その取締役3人のうち、1人は居住取締役である必要がある。
●規制事項
・一定の規模以上の公開(有限責任)会社については、独立取締役、女性取締役、監査委員会、重要な管理職等の設置が要求される。
●設立許可
・国内での会社の設立手続きは、外資による法人設立を含め、基本的には2013年会社法(Companies Act, 2013)で示された規定(既に部分施行が始まっている)に従う必要がある。
・設立に向けては、3段階の手続きが必要になる。
管理認識番号の取得→会社名の承認→会社設立証明書の取得
現地法人(Company)非公開会社
●概要
株主が2人以上、取締役は2人以上必要である。その取締役2人のうち、1人は居住取締役である必要がある。
●規制事項
・一定条件のもと、「みなし公開会社」と規定される場合は、公開会社に求められるコンプライアンスと、ほぼ同様のそれが求められる。
●設立許可(※現地法人非公開会社と同様)
駐在員事務所(Liaison Office)
●概要
・ビジネス環境や投資環境を理解することを目的に設立され、インド国外の本社と現地の顧客を結ぶ連絡拠点として活動する。
●規制事項
・営業活動や売買活動といった商業活動は一切禁止されている。
・インド国外の本社からインド国内への外国為替送金によってすべて賄わなければならない。
●設立許可
・インド準備銀行(RBI)の事前の承認を要する。
・承認は、通常3年間で、3年ごとに更新する必要がある。
支店(Branch Office)
●概要
・本社を代理して貿易、または各種サービスの提供等の商取引を行うことを目的に設立される。
●規制事項
・支店は、インドで製造・加工活動を行うことができない。
●設立許可
・インド準備銀行(RBI)の事前の承認が必要であり、インドで行おうとする事業内容についてインド準備銀行が審査する。
プロジェクト・オフィス(Project Office)
●概要
・プロジェクトの実施に関連し、またはこれに付随する活動のみを行うことができる。
・通常、プロジェクト・オフィスは、大規模な建設事業、土木工事およびイン フラ整備といった大規模プロジェクトを実施するために設立される。
●規制事項
・プロジェクト終了後は、インドから撤退することを前提としている。
●設立許可
・インド準備銀行(RBI)が指定する条件を満たす場合、自動認可ルートで認められる。
・そうでない場合には、インド準備銀行の事前承認が必要となる。
・ただし、 ともに、インド国外の本社がインドのパートナーとの間でプロジェクト実施のための契約を締結していなければ、設立の許可は出ない。
有限責任事業組合(Limited Liability partnership)
●概要
・会社の有限責任性を有しつつ、その構成員が自由に内部の運営を行うことができる。
・配当分配時の法定準備金に制限がなく、配当分配税も課せられないため、大きな設備投資を必要としない事業形態では、現地法人設立に比べてより効率的な運営が可能。
●規制事項
・外国企業はLLPでインドに進出することにより、対外商業借入れ(ECB)ができない。
●設立許可
・外国直接投資(FDI)が自動認可ルートで100%出資まで認められる分野については外国投資促進委員会(FIPB)の事前認可を取得する必要はなくLLPでの進出ができるようになった。
出典:経済産業省
外貨持出規制
・2014年6月、インド準備銀行(RBI)は、これまで規制されていたインドルピー持出規制の規制緩和を施行した。
・25,000ルピーを上限とし、インドルピーのインドからの持ち出しを許可した。
出典:経済産業省
経済特区
特別経済区の開発企業と入居企業には、法人税減免などの優遇措置が適用される。また、外国貿易政策では、輸出振興を目的とした原材料の関税減免スキームなどが定められている。
特別奨励区・保税区など
特別経済区(Special Economic Zone:SEZ)
特別経済区(SEZ)とは、輸出・雇用振興を目的に、免税などの各種優遇措置を適用する「みなし外国地域」のことを指す。
2006年2月に発効したSEZ法およびSEZ規則は、SEZの開発企業および入居企業に対して、一定の要件を満たしていることを条件に、最大15年間の法人税減免、原材料・部品の輸入関税免税を制定している〔2006年SEZ法 第7条、第26条〕。
なお、2010年度までは、SEZに入居する企業が取得した利益は、最低代替税(MAT)スキームの対象外となっていたが、〔2011年インド財政法〕で見直され、これらの利益もMATスキーム(実効税率は課税対象所得額によって異なるが20%程度)の対象となった。
また、SEZ開発を2017年4月1日以降に開始する企業に対しては、法人税免除はない。また、製造活動を2020年4月1日以降に開始する企業に対しては、法人税免除はない〔1961年所得税法 第80IAB条、第10AA条〕。
商工省:特別経済区
法務省:2005年SEZ法
商工省:2006年SEZルール
SEZ入居企業は、生産開始から5年間を1ブロックとし、以後継続的に1ブロックの輸出入収支をプラスに保つ(輸出額が輸入額を上回る)ことが義務付けられている。なお、SEZからの国内販売に関する上限規制はない。すなわち、SEZ内企業は製品をすべて国内向けに販売することも可能である。ただし、SEZは「みなし外国」扱いのため、国内購入者(輸入者)はSEZからの輸入に係る関税を支払う必要がある。
SEZから国内販売(国内に輸入)する際、適用されるIGSTおよび特別追加税を含めた関税率は、一般の〔関税率法(Custom Tariff Act, 1975)〕に基づくレートを適用。GST法導入後、一定の物品(原油、高速ディーゼル、ガソリン、天然ガス、航空タービン燃料、人が消費するアルコール)に対しては、旧法の付加価値税(VAT)・物品税が引き続き課せられる。
SEZ企業が当該物品の国内販売を行う場合には、国内購入者(輸入者)が通関を行い、基本関税とともに適用される追加関税および特別追加関税を支払う必要がある。当該物品に関する税率は、通常の輸入と同様に適用される。ただし、課税エリアからの中古資本財調達に関しては、全体の20%以下に抑えなければならない。しかし、一定の条件を満たす場合は、特別追加関税が免除される。
出典:インドの外資に関する奨励(日本貿易振興機構)
所得税
所得税は、インド所得税法(Income Tax Act 1961)に従って計算された所得に課税される。課税対象となる所得の区分は以下の通りである。
・給与所得 ・賃貸所得 ・事業所得 ・キャピタルゲイン所得 ・その他の所得(ロイヤリティや利息といった雑収入)
納税者番号(PAN)
個人、法人を問わず、全ての納税者は、納税者番号(Permanent Account Number:PAN)を申請し取得しなければならない。この番号で全ての申告、税務当局への問い合わせ、申請書類などに用いられる。PANの取得には通常、以下の書類の提出が必要であり、英語以外の言語の場合は、英訳とそのアポスティーユの取得が必要である。
・写真付きID(パスポートなど)
・住所証明(運転免許証など)
なお、法人の場合は上記に代わり、会社登記簿謄本とその英訳(アポスティーユを取得)が一般に要求される。
源泉徴収者番(TAN)
所得税法に従い源泉徴収義務を負う者は、源泉徴収が行われる月の末日から1か月以内に源泉徴収者番号(Tax Deduction Account Number:TAN)を申請し取得しなければならない。
税務年度
所得税の課税は、4月1日から3月31日の年後に対して行われる。法人の場合、会社法上の事業年度とは関係なく、税務年度は3月末に終了する1年となる。なお、インドの所得税法では、Assessment Yearという用語が用いられるが、これは申告を行う年度をいう。例えば、2019~20事業年度(2020年3月31日に終了する年度)に関する所得については、翌事業年度の2020年~21年度に申告するので、「Assessment Year 2020-21の所得」と呼び、2019~20年度はPrevious Yearと呼ばれる。
出典:インド経済大全
関税
インドの関税制度は、1975年関税率法に基づき下記の4つから構成される。
1.基本関税 2.社会福祉課徴金 3.統合物品・サービス税(IGST)
4.GST補償税(GST Compensation Cess)
基本関税(Basic Custom Duty:BCD)
基本関税の税率は、輸入物品に応じて原則0~10%。ただし、一定の例外品目には、この範囲を超える高関税が課せられる。基本関税額は、基本関税率×評価額(Assessable Value)で計算される。評価額の計算は次のとおり。
評価額=FOB価格+a.輸送費+b.保険料+c.荷揚げ費用
・輸入地までの輸入品目の輸送費:当該費用が算出できない場合、FOB価格の20%。
・保険料:当該保険料が算出できない場合、FOB価格の1.125%。
・輸入品目に関する荷役費または手数料:当該費用が算出できない場合、(FOB価格+輸送費+保険料)× 1%。
社会福祉課徴金(Social Welfare Surcharge)
基本関税に10%、特定の物品に対しては3%の関税が課せられる。
農業インフラ・開発目的税(Agriculture Infrastructure and Development Cess:AIDC)
1975年関税率法第一附則に規定された物品に対して課されるのが農業インフラ・開発目的税(AIDC)。基本関税と同様の取引額に基づいて計算され、様々な項目における特定の商品に対して2.5~100%の税率が適用されるが、AIDCは基本関税率を超えない税率で課されることになっている。
統合物品・サービス税(Integrated Goods and Services Tax:IGST)
基本関税と社会福祉課徴金に加え、〔2017年IGST法第5条〕に基づき、IGSTが課せられる。現在、IGSTの税率は輸入品目によって0~28%(最高税率40%)。また、豆類、野菜、食肉、手織物、新聞、書籍など一定のIGST免税対象物品も規定している。
物品・サービス補償税(GST Compensation Cess)
物品・サービス(GST)補償税はタバコ、炭酸水、高級車等特別な嗜好品などに対して、規定の税率に基づき課税される。しかし、GST対象外の原油、高速ディーゼル、ガソリン、天然ガス、航空タービン燃料、人が消費するアルコールに対しては、IGSTおよびGST補償税の課税に替えて、旧法の相殺関税(CVD)、追加関税(ADC)・特別追加関税(SAD)が引き続き課税される。一方、GST補償税が適用となる物品の利用許諾権または所有権などの譲渡の一定のサービスに対しては、GST補償税が適用される。
出典:日本貿易振興機構